『注文の多い料理店』とは
著者:宮沢賢治 ジャンル:童話
宮沢賢治の代表作のひとつである『注文の多い料理店』は、山奥で道に迷った二人の紳士が不思議な料理店に辿り着くところから始まります。店に入ると、そこには次々と奇妙な注文が書かれた看板が立っており、二人は言われるままに従っていきます。ところが、その要求はだんだんと不自然で、どこか不気味な方向へ…。読者は、狩人たちが一体何をされようとしているのか、緊張感を持って読み進めることになります。
こちらで読めますので是非。
心に残った引用文×着想イラスト

「料理はもうすぐできます。 十五分とお待たせはいたしません。 すぐたべられます。 早くあなたの頭に瓶びんの中の香水をよく振ふりかけてください。」
そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。 二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。
ところがその香水は、どうも酢のような匂いがするのでした。
「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだろう。」
「まちがえたんだ。下女が風邪でも引いてまちがえて入れたんだ。」
二人は扉をあけて中にはいりました。
扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。
「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。 もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん よくもみ込んでください。」
感想×用語解説×考察
タイトル「注文の多い料理店」について
この入れ替わり構造が皮肉めいており、展開にハラハラさせられます。特に、とんちんかんな要求に従いながらも「良い方に解釈してしまう」狩人の姿は、人間の楽観や鈍感さを象徴しているように感じます。
犬に関して
物語冒頭で死んでしまう二匹の犬。狩人たちは悲しむどころか「損をした」と言います。しかし最後、彼らを助けたのはその犬でした。
私の解釈では、命を粗末にする狩人に山の神の怒りが及び、犬の健気さに免じて命だけは助けられたのだと思います。ここに、「因果応報」や「報恩」の物語的要素が垣間見えます。
香水について
賢治が生きた大正時代、ちょうど資生堂が花をモチーフにした香水を発売し始めた頃でした。おそらく当時の香水は高級品であり、一般家庭にはほとんど縁がなく、だからこそ、物語の登場人物も、その珍しさや憧れから素直に従ってしまった可能性があります。
読後の変化×学び
現代の私たちにも通じる教訓です。インターネットや広告でも「お得」に見える話ほど、注意深く読む必要があります。
おわりに ―
『注文の多い料理店』は、単なる童話ではなく、人間の愚かさや欲、そして命の尊さを静かに問いかける物語です。私たちも日々の選択や判断で、知らぬ間に「注文」に従ってしまっていないか…立ち止まって考えるきっかけを与えてくれます。
コメント