宮沢賢治『注文の多い料理店』|皮肉と因果応報が光る童話の深層を辿る【解釈×イラスト×学び】

文学作品をイラストで表現するシリーズ「読書スケッチ」|宮沢賢治『注文の多い料理店』をモチーフにしたヘッダー画像 読書スケッチ

宮沢賢治『注文の多い料理店』について 、概要・あらすじ・引用文をなぞり、作品解釈や探求を深めながら、自作のイラストで世界観を紹介しています。 物語の要約も含まれているため、作品をすべて読む時間がない方にもおすすめの記事です。

概要×あらすじ

『注文の多い料理店』とは

宮沢賢治による童話で、山で迷った二人の紳士が「注文の多い」不思議なレストランに入る物語です。ユーモアと幻想を交えながら、人間の欲や身勝手さをさりげなく描き、読者に教訓を与える作品です。 

あらすじ

山奥で道に迷った二人の紳士が不思議な料理店に辿り着くところから始まります。店に入ると、そこには次々と奇妙な注文が書かれた看板が立っており、二人は言われるままに従っていきます。ところが、その要求はだんだんと不自然で、どこか不気味な方向へ…。

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探求×引用文×着想イラスト

山の中で見つけた「山猫軒」――タダほど怖いものはない?

「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮えんりょはありません」
 二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。
「こいつはどうだ、やっぱり世の中はうまくできてるねえ、きょう一日なんぎしたけれど、こんどはこんないいこともある。このうちは料理店だけれどもただでご馳走ちそうするんだぜ。」
「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」
 二人は戸をして、なかへ入りました。そこはすぐ廊下ろうかになっていました。その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。

「ことにふとったお方や若いお方は、大歓迎だいかんげいいたします」
 二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。
「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」
「ぼくらは両方兼ねてるから」

山の中をさまよって困っていた二人は、偶然「山猫軒」というお店を見つけます。しかも看板には「決してご遠慮はありません」とあり、まるで無料でごちそうが食べられるよう。

。思わぬ幸運に二人は大喜びしますが、昔から「タダほど怖いものはない」…この時点で、すでに不穏な展開の予感が漂っています。

注文の多い料理店で続く不可解な要求【イラスト】

「お客さまがた、ここでかみをきちんとして、それからはきもの
 のどろを落してください。」
と書いてありました。
「これはどうももっともだ。僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」
「作法の厳しい家だ。きっとよほどえらい人たちが、たびたび来るんだ。」

「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
 みるとたしかに壺のなかのものは牛乳のクリームでした。
「クリームをぬれというのはどういうんだ。」
「これはね、外がひじょうに寒いだろう。へやのなかがあんまり暖いとひびがきれるから、その予防なんだ。どうも奥には、よほどえらいひとがきている。こんなとこで、案外ぼくらは、貴族とちかづきになるかも知れないよ。」
 二人は壺のクリームを、顔に塗って手に塗ってそれから靴下をぬいで足に塗りました。それでもまだ残っていましたから、それは二人ともめいめいこっそり顔へ塗るふりをしながら喰べました。
 それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、

「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」

多岐にわたる要望に、読者なら「さすがにおかしい」と気づくところですが、二人はむしろ「作法が厳しい家だ」と納得してしまいます。さらに「クリームを顔や手足に塗れ」という奇妙な指示までも素直に従い、最後にはこっそり味見までしてしまうのでした。

宮沢賢治 注文の多い料理店 イラスト
▲「注文の多い料理店」 イメージイラスト

「料理はもうすぐできます。 十五分とお待たせはいたしません。 すぐたべられます。 早くあなたの頭に瓶びんの中の香水をよく振ふりかけてください。」  
そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。  二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。  

ところがその香水は、どうも酢のような匂いがするのでした。
「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだろう。」
「まちがえたんだ。下女が風邪でも引いてまちがえて入れたんだ。」
 二人は扉をあけて中にはいりました。  
扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。

「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。  もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん  よくもみ込んでください。」

注文が多い料理店「食べられるのはお前だ」

「どうもおかしいぜ。」
「ぼくもおかしいとおもう。」
沢山たくさんの注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」
「だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやるうちとこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえだしてもうものが言えませんでした。

「いや、わざわざご苦労です。
 大へん結構にできました。
 さあさあおなかにおはいりください。」
と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきょろきょろ二つの青い眼玉めだまがこっちをのぞいています。
「うわあ。」がたがたがたがた。
「うわあ。」がたがたがたがた。
 ふたりは泣き出しました。

タイトル「注文の多い料理店」について

  • 狩人が狩られる
  • 注文する側が注文される
  • 食べるはずが食べられる

この入れ替わり構造が皮肉めいており、展開にハラハラさせられます。特に、とんちんかんな要求に従いながらも「良い方に解釈してしまう」狩人の姿は、人間の楽観や鈍感さを象徴しているように感じます。

犬に関して【考察】

それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。
 それに、あんまり山が物凄ものすごいので、その白熊のような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらくうなって、それからあわいて死んでしまいました。
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬のぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。
「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。

「早くいらっしゃい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもって、舌なめずりして、お客さま方を待っていられます。」
 二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。
 そのときうしろからいきなり、
「わん、わん、ぐゎあ。」という声がして、あの白熊しろくまのような犬が二ひきをつきやぶってへやの中に飛び込んできました。

物語冒頭で死んでしまう二匹の犬。狩人たちは悲しむどころか「損をした」と言います。しかし最後、彼らを助けたのはその犬でした。

私の解釈では、命を粗末にする狩人に山の神の怒りが及び、犬の健気さに免じて命だけは助けられたのだと思います。ここに、「因果応報」や「報恩」の物語的要素が垣間見えます。

読後の変化×学び×まとめ

  • うまい話には裏がある
  • 命を尊ばない者には報いがある

現代の私たちにも通じる教訓です。インターネットや広告でも「お得」に見える話ほど、注意深く読む必要があります。

『注文の多い料理店』は、単なる童話ではなく、人間の愚かさや欲、そして命の尊さを静かに問いかける物語です。私たちも日々の選択や判断で、知らぬ間に「注文」に従ってしまっていないか…立ち止まって考えるきっかけを与えてくれます。

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